日本におけるオンライン診療のはじまり

コラム

日本におけるオンライン診療の導入と発展:その経緯、現状、そして未来への展望

はじめに:オンライン診療の定義と本レポートの目的

本レポートは、日本の医療システムにおけるオンライン診療の導入から現在に至るまでの詳細な経緯、その背景にある政策的・技術的要因、そして今後の展望について多角的に分析することを目的とする。オンライン診療は、情報通信技術(ICT)を活用して医師と患者がリアルタイムで診察・診断を行い、診断結果の伝達や処方を行う医療行為と定義される [1, 2]。これは、単なる医学的助言を行う「遠隔健康医療相談」や、医療機関への受診を促す「オンライン受診勧奨」とは明確に区別される [1, 2]。その前身である「遠隔診療」の概念は1990年代に萌芽が見られ [2, 3, 4, 5, 6, 7]、長年にわたる議論と制度整備を経て、今日の形へと発展してきた。本レポートは、医療政策研究者、医療業界アナリスト、事業開発担当者といった専門家を対象に、信頼性の高い情報と深い洞察を提供することで、日本のデジタルヘルスケアの未来を理解し、戦略を策定するための一助となることを目指す。

オンライン診療の概念は広範でありながら、その政策的な焦点は時代とともに変遷してきた。初期の遠隔診療が離島やへき地における医療アクセス改善という特定の地理的課題への「手段」として位置づけられた [3, 5, 6, 7, 8] のに対し、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック [3, 6, 8, 9, 10, 11, 12, 13, 14] を契機には、感染症対策という緊急性の高い社会課題への対応「手段」としてその役割が強く認識されるようになった。この変遷は、オンライン診療が単なる技術の導入に留まらず、その時々の医療政策上の優先課題や社会情勢に応じて、その定義や期待される役割が柔軟に再解釈されてきたことを示している。このような多義性を持つオンライン診療の進化の軌跡を追うことは、日本の医療システムがどのように外部環境の変化に適応し、デジタル変革を進めてきたかを理解する上で不可欠である。

第1章:遠隔医療の黎明期と初期の法的枠組み(1990年代~2014年)

日本のオンライン診療の歴史は、1990年代に「遠隔診療」という形で始まった [3, 4, 5, 15]。これは当時のテレビ電話などの情報通信機器を活用したものであった。しかし、その概念自体はさらに古く、1971年には日本で初の遠隔医療実験として心電図伝送が和歌山で行われ、1983年には慶應大学で世界初の遠隔病理診断が実施されるなど、技術的な試みは先行していた [16]。1996年には厚生省に遠隔医療研究班が結成され、本格的な検討が始まった [16]。

遠隔診療が法的に位置づけられたのは、1997年12月24日に厚生省健康政策局長通知が発出された時である [2, 3, 4, 5, 7, 15, 16, 17, 18]。この通知は、医師法第20条「無診察診療の禁止」の解釈として、情報通信機器を用いた診療(遠隔診療)が直ちに医師法に抵触しない場合があることを示した。しかし、その適用には厳しい制限が設けられていた。原則として初診は対面診療が必須とされ [2, 5, 7]、対象患者は「離島、へき地の患者」や「病状が安定している在宅患者(糖尿病、高血圧症など特定の慢性疾患)」に限定されていた [2, 3, 5, 7, 8, 15]。当時の遠隔診療は、対面診療の補完的な位置づけに留まり、日常的な普及には至らなかった [5, 15]。

その後、2003年と2011年に通知の一部改訂が行われ、適用対象となる疾病が追加されたり、地域制約が緩和されたりしたが [16]、依然として対面診療の補完的な位置づけに留まり、日常的な普及には至らなかった [5, 15]。2017年時点でも、オンライン診療を導入している医療機関は病院で0.2%、診療所で0.4%と極めて低い水準であった [15]。

この黎明期には、医療技術の発展が先行し、法的・制度的枠組みの整備がそれに遅れて追随するというパターンが顕著であった。1970年代から80年代にかけての遠隔医療実験の先行に対し [16]、法的な枠組みが整備されたのは1997年であり [3, 4, 5, 6, 7, 15, 16, 17, 18, 19]、このタイムラグは、医療分野におけるデジタル技術の導入が、その安全性、有効性、そして既存の法体系(医師法20条など)との整合性を慎重に検討する必要があるため、常に技術の進化に規制が後から追随する傾向があることを示している。特に、医師法20条の「無診察診療の禁止」という原則が、新しい技術の解釈を難しくし、慎重なアプローチを促したと考えられる [2, 3, 7, 20]。これは、医療の安全と信頼性確保を最優先する日本の医療政策の特性を反映している。

また、オンライン診療の初期の導入は、都市部と地方の医療格差、特に医師不足地域への医療アクセス改善という、地域医療の課題解決策として位置づけられていた [2, 21, 22]。1997年の通知で遠隔診療の対象が「離島、へき地の患者」に限定されたこと [3, 5, 6, 7, 8] は、当時の遠隔医療が、地理的障壁を解消するための手段として認識されていたことを示唆している。この初期の限定的な適用は、オンライン診療が当初から「利便性」だけでなく、「医療提供体制の維持」という社会的な必要性に基づいて導入されたことを示しており、その後の規制緩和の方向性にも影響を与えた。

表1:日本のオンライン診療関連法規・指針の主な変遷

年月日 主な出来事 内容概要とオンライン診療への影響 関連情報源ID
1971年 日本初の遠隔医療実験 心電図伝送が和歌山で実施。技術的な萌芽。 [16]
1983年 世界初の遠隔病理診断 慶應大学で実施。技術的な進展。 [16]
1996年 厚生省遠隔医療研究班結成 遠隔医療の本格的な検討開始。 [16]
1997年12月24日 厚生省健康政策局長通知発出 医師法20条の解釈として遠隔診療が直ちに抵触しない場合があることを明示。初診は原則対面、対象は離島・へき地や特定の慢性疾患の再診に限定。 [2, 3, 4, 5, 7, 15, 16, 17, 18, 19]
2003年3月31日 厚生労働省通知一部改訂 遠隔診療の適用対象に7疾病が例示。 [16]
2011年3月31日 厚生労働省通知再改訂 適用対象に2疾病を追加、適用地域の制約がなくなる。 [16]
2015年8月10日 厚生労働省医政局長事務連絡 1997年通知の「離島、へき地の患者」が例示であることが明確化され、地域・対象患者制限が実質的に撤廃。対面診療の事後必須も否定。 [3, 6, 7, 19, 20, 23, 24]
2016年2月 CLINICSオンライン診療提供開始 主要オンライン診療プラットフォームの市場参入。 [24, 25, 26, 27]
2016年4月 curon(クロン)提供開始 主要オンライン診療プラットフォームの市場参入。 [28, 29, 30]
2018年3月 「オンライン診療の適切な実施に関する指針」策定 オンライン診療の定義、基本理念、遵守事項、対象範囲などを明確化。 [1, 2, 3, 6, 8, 9, 10, 11, 20, 31, 32, 33, 34, 35, 36, 37, 38, 39]
2018年4月 診療報酬改定「オンライン診療料」新設 一定要件下でオンライン診療が保険適用に。対象は再診のみ、疾患は限定的。 [3, 6, 11, 34]
2020年4月10日 新型コロナウイルス感染症拡大に伴う時限的・特例的措置 初診からのオンライン診療・電話診療を時限的・特例的に許可。対象疾患・処方制限を大幅緩和。 [8, 9, 10, 11, 13, 14, 40]
2020年10月 3閣僚合意(菅内閣) 初診を含めたオンライン診療の原則解禁を決定。映像による診療を原則とし、安全性・信頼性確保を前提。 [6, 12, 13, 14, 41]
2021年4月 オンライン診療研修の受講必須化 医師の質の確保のため研修受講が義務付けられる。 [2, 3, 32, 36, 38]
2022年1月 「オンライン診療の適切な実施に関する指針」改定 平時における初診からのオンライン診療が恒久化。原則「かかりつけ医」が実施。 [3, 11, 14, 31, 34, 40, 42]
2022年度 診療報酬改定「オンライン診療料」廃止、初・再診料新設 情報通信機器を用いた初・再診料、医学管理料などが新設され、対面診療に点数が近づく。 [11, 34, 43, 44]

この年表は、オンライン診療の複雑な歴史を時系列で整理し、各時点での政策的意図やその影響を明確にすることで、読者がこの分野の発展を俯瞰的に理解することを可能にする。個々の情報源を明示することで、レポートの信頼性と学術的価値を高めている。

第2章:オンライン診療への転換と制度化(2015年~2019年)

2015年は、日本のオンライン診療にとって大きな転換点となった。同年8月10日、厚生労働省医政局長事務連絡により、1997年の通知における「離島、へき地の患者」という限定が例示であることが明確化され、遠隔診療の地域・対象患者制限が実質的に撤廃された [3, 6, 7, 19, 20, 23, 24]。この事務連絡は、遠隔医療が必ずしも対面診療の後に行われる必要はないことを示し、安全性、必要性、有効性が担保されない遠隔診療は信頼性を損なう可能性があると警告しつつも、オンライン診療普及に向けた大きな一歩となった [7]。

この規制緩和を受け、2018年3月には厚生労働省が「オンライン診療の適切な実施に関する指針」を策定し、オンライン診療の定義、基本理念、遵守事項、対象範囲などを明確化した [1, 2, 3, 6, 8, 9, 10, 11, 20, 31, 32, 33, 34, 35, 36, 37, 38, 39]。この指針は、オンライン診療が「患者の日常生活の情報も得ることによる医療の質のさらなる向上」「医療を必要とする患者へのアクセシビリティ確保」「患者の治療への能動的参画」を目的とすべきであると明記し、医療の質と患者中心の医療提供を重視する姿勢を示した [2, 3, 32, 33, 35]。さらに、同年4月の診療報酬改定では、一定の要件を満たす場合に「オンライン診療料」が新設され、オンライン診療が保険診療として行えるようになった [3, 6, 11, 34]。

しかし、初期の保険適用条件は依然として厳しかった。2018年の指針および診療報酬改定では、オンライン診療の対象は原則「再診のみ」であり、疾患も限定的で厳しい条件があった [11, 32]。具体的には、高血圧症、脂質異常症、糖尿病などの慢性疾患の再診が主な対象とされ、初診は原則対面診療が必要とされた [9, 32, 38]。また、麻薬及び向精神薬、基礎疾患が不明な患者への安全管理が必要な薬品、8日分以上の処方には制限があった [2, 13, 20, 32]。

この時期は、政策と技術・ビジネスが相互に作用し、オンライン診療の市場形成が本格化した時期と位置づけられる。2015年の事務連絡による規制緩和 [3, 6, 7, 19, 20, 23, 24] が、オンライン診療プラットフォーム開発の直接的な契機となり [24, 25]、これを受けて2016年2月にはメドレーが「CLINICSオンライン診療」を [24, 25, 26, 27]、同年4月にはMICINが「curon(クロン)」を [28, 29, 30]、そして2018年にはインテグリティ・ヘルスケアが「YaDoc」の提供を開始した [45, 46, 47, 48]。これらのプラットフォームは、オンライン診療の予約管理、ビデオ通話、決済、処方薬配送など、一連のサービスをシステム上で完結できる機能を提供し、医療機関のオンライン診療導入を支援した [49, 50]。政府の政策的後押しが、民間企業の技術革新とビジネス参入を促し、新たな市場を形成する重要なトリガーとなったのである。診療報酬上の評価(「オンライン診療料」の新設) [3, 6, 11, 34] が、医療機関がオンライン診療を導入するインセンティブとなり、市場拡大をさらに加速させた側面も看過できない。

一方で、オンライン診療の本格的な制度化は、医療安全と患者保護を極めて重視する日本の医療政策の特性を色濃く反映していた。2018年の指針で対象が原則「再診のみ」に限定され、初診は原則対面診療が求められたこと [11, 32, 38]、処方薬に厳しい制限が設けられたこと [2, 13, 20, 32] は、2015年の規制緩和で「対面診療の後に行われる必要はない」とされたものの、依然として「医療の質」と「患者の安全性」を最優先する日本の医療文化と政策哲学が強く反映されていることを示している。特に、誤診リスク [10, 15, 51, 52, 53, 54] や医師と患者の信頼関係 [2, 20, 53, 54, 55, 56, 57, 58] の構築といった医療現場からの懸念が、慎重な制度設計の背景にあったと考えられる。この慎重さは、後のCOVID-19パンデミック時の大幅な規制緩和と対比され、平時における医療安全への強いコミットメントを示している。

第3章:新型コロナウイルス感染症による普及の加速と恒久化(2020年~2022年)

2020年は、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが、日本のオンライン診療の普及を劇的に加速させる転換点となった。同年4月10日、厚生労働省は事務連絡「新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いについて」を発出 [8, 9, 10, 11, 13, 14, 40]。これにより、感染症対策として、初診からのオンライン診療・電話診療が時限的・特例的に認められ、対象疾患や処方制限も大幅に緩和された [8, 11, 13, 38]。この措置は、オンライン診療の普及を目的とし、医療機関がオンライン診療対応可能となる件数が2020年4月、5月で大きく伸びるなど、一気に進展を見せた [3, 8]。

この「時限的・特例的措置」は、予期せぬ形で大規模な社会実験となり、オンライン診療の利便性(通院負担軽減、感染リスク回避)が広く認識される契機となった [3, 32, 58, 59]。パンデミックという未曾有の危機が、通常では何年もかかるであろう規制改革の議論と実施を劇的に加速させ、初診からのオンライン診療の恒久化 [3, 11, 14, 31, 34, 40, 42] という大きな政策転換につながった。これは、危機がイノベーションと制度改革の強力な触媒となる典型的な事例である。

2020年10月には、菅義偉内閣の重点政策のひとつとしてオンライン診療の推進が掲げられ、河野規制改革担当相、田村厚労相、平井デジタル相の3閣僚合意により、初診を含めたオンライン診療の原則解禁が決定された [6, 12, 13, 14, 41]。この合意では、オンライン診療は電話ではなく映像があることを原則とし、安全性と信頼性の確保をベースとすることが強調された [13, 41]。ただし、この時点ではまだ時限的・特例的な措置であり、恒久化に向けた議論が「オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」で進められた [8, 14, 35, 36, 51, 40, 41, 60, 61, 62]。

そして、2022年1月、「オンライン診療の適切な実施に関する指針」が一部改定され、平時においても初診からのオンライン診療が恒久的に可能となった [3, 11, 14, 31, 34, 40, 42]。これに伴い、2022年度診療報酬改定では「オンライン診療料」が廃止され、情報通信機器を用いた初・再診料、医学管理料などが新設され、対面診療に点数が大きく近づいた [11, 34, 43, 44]。初診からのオンライン診療は原則「かかりつけの医師」が行うこととされたが、医学的情報が提供される場合や、診療前相談を経てオンライン診療が可能と判断された場合は、かかりつけ医以外でも実施できる例外が設けられた [1, 2, 32, 51, 41]。

この普及加速期においても、日本のオンライン診療政策は、単なる利便性追求に留まらず、医療安全と質の確保を最重要課題とし、そのバランスを慎重に模索していた。初診の原則解禁が決定された一方で、「安全性と信頼性をベースに」という条件が繰り返し強調された [13, 14, 51, 41]。2021年4月からは、オンライン診療研修の受講が必須となり、医師の質の確保が図られた [2, 3, 32, 36, 38]。これは、規制緩和と普及推進と並行して、医療安全と適切な実施を担保するための重要な措置である。また、初診の恒久化においても「かかりつけ医原則」が維持され、例外規定が設けられたこと [1, 2, 32, 51, 41] は、利便性の追求と同時に、誤診リスク [10, 15, 51, 52, 53, 54] や医師-患者間の信頼関係 [2, 20, 53, 54, 55, 56, 57, 58] といった医療現場からの懸念に配慮した結果と解釈できる。

第4章:オンライン診療の現状と普及における課題

オンライン診療は普及が加速したものの、その導入と利用には医療機関と患者双方から見た課題が依然として存在する。2021年3月末時点で、電話・オンライン診療が実施できる医療機関数は全医療機関の15.2%に留まり、初診から実施できる登録医療機関数は6.4%と、依然として低い水準である [8, 59]。

医療機関側の課題

医療機関側がオンライン診療の導入に際して直面する主な課題は多岐にわたる。まず、診療報酬の差が挙げられる。対面診療に比べてオンライン診療の診療報酬点数が低いことが、医療機関にとって導入インセンティブを低くしている [54, 59, 44, 63]。例えば、2022年度改定後でも、初診料は対面288点に対しオンライン251点と差がある [44]。

次に、ITリテラシーとノウハウの不足も大きな障壁である。医療従事者にはPCやスマートフォンでのシステム運用・管理に必要なITリテラシーが求められ、効率的なオンライン診療を行うノウハウが不足している医療機関も多い [54, 56, 59, 44, 64]。これに関連して、システム導入・運用コストも課題となる。初期費用や月額費用、セキュリティ対策など、システム導入・維持にかかるコストが高いと感じられている [49, 50, 54, 59, 44, 63, 65, 66]。実際、オンライン診療の導入・運用は、対面診療よりも業務が複雑になると感じている医療機関が多い [54]。

医療安全面では、誤診リスクへの懸念が根強い。触診や精密検査ができないため、病状の見落としや誤診のリスクが高まるという医師側の不安が大きい [10, 15, 51, 52, 53, 54]。また、対面診療の方が医師-患者間の信頼関係を築きやすいという意見も存在する [2, 20, 53, 54, 55, 56, 57, 58]。さらに、機密情報の漏洩や不正アクセス、データ改ざんなどのリスク対策として、強固なセキュリティ対策が必須であることも医療機関の負担となる [2, 32, 54, 58, 44]。

患者側の課題

患者側にもオンライン診療の利用を妨げる要因がある。特に高齢の患者にとって、スマートフォンやアプリの操作に不慣れな場合が多く、ITリテラシーが導入の障壁となる [54, 58, 59, 64]。実際、約2割の患者が「利用方法がよくわからなかった」ことを利用しない理由に挙げている [58]。

また、「十分な医療が受けられるか不安があった」という声も多く、対面診療と同等の質を求める声がある [58]。オンライン診療では安定したネットワーク環境が必要であり、患者側での準備も求められる [44]。さらに、検査や処置が必要な場合、結局医療機関への来院が必要となり、二度手間になるという意見も存在する [54]。

オンライン診療がもたらす多角的なメリット

これらの課題がある一方で、オンライン診療がもたらすメリットは多大である。最大の利点は医療アクセスの改善である。遠隔地に住む患者や高齢者、身体に不自由のある患者にとって、通院負担が軽減され、医療へのアクセスが容易になる [2, 3, 21, 22, 32, 33, 35, 54, 58]。これにより、時間的・経済的コストが削減され、待ち時間も短縮される [32, 54, 58]。

感染症対策としても有効であり、感染リスクの低減に貢献する [32, 58, 59]。また、オンライン診療は医療DX(デジタル変革)の重要な一部であり、患者の生活背景も踏まえた個別化・最適化された医療の実現に寄与する [3]。医師の働き方改革にも貢献し、医師の所在が診療所に限定されないため、産休・育休中の医師の労働力活用など、柔軟な働き方を支援する [1]。さらに、事前問診の充実や患者情報の一元管理により、効率的な診療や医学管理の継続性向上に繋がることで医療の質が向上し [21, 33, 57, 44]、患者が治療に能動的に参画することで、治療効果の最大化が期待される [2, 3, 32, 33, 35]。

表2:オンライン診療のメリットと課題(医療機関・患者視点)

視点 メリット 課題 関連情報源ID
医療機関 医療アクセスの改善 (遠隔地・高齢者対応) [3, 21, 22, 33]
医療DXへの貢献 [3]
医師の働き方改革 (勤務場所の柔軟性) [1]
診療効率の向上 (事前問診、情報一元管理) [21, 57, 44]
医学管理の継続性向上 [2]
低い普及率 [8, 59]
診療報酬の低さ [54, 59, 44, 63]
ITリテラシー・ノウハウ不足 [54, 56, 59, 44, 64]
システム導入・運用コスト [49, 50, 54, 59, 44, 63, 65, 66]
業務の複雑化 [54]
誤診リスクへの懸念 [10, 15, 51, 52, 53, 54]
医師-患者関係構築の難しさ [2, 20, 53, 54, 55, 56, 57]
セキュリティ対策の必要性 [32, 54, 58, 44]
[1, 2, 3, 8, 10, 15, 20, 21, 22, 32, 33, 35, 37, 39, 49, 50, 51, 52, 53, 54, 55, 56, 57, 58, 59, 44, 63, 64, 65, 66]
患者 通院負担軽減 (時間・経済的コスト削減) [32, 58]
待ち時間短縮 [32, 58]
感染予防 [32, 58, 59]
薬の自宅配送 [32, 67]
治療への能動的参加 [2, 3, 33]
ITリテラシーの必要性 [54, 58, 59, 64]
利用方法の不明瞭さ [58]
診療の質への不安 [58]
快適な通信環境の必要性 [44]
最終的に来院が必要なケース [54]
[2, 3, 32, 33, 54, 58, 59, 44, 64, 67]

この表は、オンライン診療の導入と利用における医療機関と患者双方のメリットと課題を一覧で示すことで、この分野の複雑な側面を明確にしている。特に、患者は利便性を享受する一方で、医療機関は経済的・運用的な負担や医療安全への懸念を抱えているという、両者の利害の差が浮き彫りになる。この構造的な理解は、今後の政策立案やサービス開発において、それぞれの利害関係を考慮したアプローチの重要性を示唆する。

現状のオンライン診療の普及は、医療機関側の経済的インセンティブの不足と、患者側のデジタルリテラシーの格差という二つの大きなボトルネックに直面している。診療報酬の差が医療機関の導入意欲を削ぎ [54, 59, 44, 63]、特に高齢層で顕著なITリテラシーの不足や利用方法の不明瞭さ [54, 58, 59, 64] は、患者側の利用を抑制している。これらの要因は、オンライン診療が「便利である」という認識があるにもかかわらず、実際の普及率が低い [8, 15, 25, 54, 59] 背景を説明している。政策的に制度が整えられても、経済的な合理性と利用者側のデジタル対応能力が伴わなければ、真の普及には繋がらないという構造的な課題が浮き彫りになっているのである。

また、医療の質と安全への根強い懸念も、オンライン診療の普及を阻害する重要な要因である。医師側は「誤診リスク」や「対面診療の方が信頼関係を築きやすい」という懸念を強く抱き [10, 15, 51, 52, 53, 54]、患者側も「十分な医療が受けられるか不安」を表明している [58]。これらの懸念は、オンライン診療が「対面診療の代替」として認識されがちであり、その限界(触診不可、非言語情報の欠如など)が強調されることで生じている。この根強い不安は、オンライン診療の導入を慎重にさせ、普及を阻害する要因となっている。これは、医療提供者と患者双方に、デジタル技術を活用した新たな診療形態に対する「信頼のギャップ」が存在することを示唆している。このギャップを埋めるためには、技術的な進歩(遠隔診断機器など)だけでなく、オンライン診療特有の診断学の確立や、医療従事者・患者双方への適切な教育と情報提供が不可欠である [2, 32, 53, 54, 57]。

結論:オンライン診療の発展が示す日本の医療の未来

日本のオンライン診療は、1990年代の遠隔診療の萌芽から始まり、2015年の規制緩和、2018年の制度化を経て、COVID-19パンデミックを契機に2022年には初診からの恒久化へと大きく発展した [3, 4, 5, 6, 7, 11, 15, 16, 31]。この発展は、医療アクセスの改善、患者の通院負担軽減、感染症対策といった多大なメリットをもたらし、日本の医療提供体制の多様化に貢献している [2, 3, 21, 22, 32, 33, 35, 54, 58, 59]。オンライン診療は、単なる対面診療の代替ではなく、医療DX(デジタル変革)の重要な一部であり、「Personalization(個別化)、Prediction(予見)、Prevention(予防)、Participation(参加)」といった医療の将来像(4つのP)に繋がる可能性を秘めている [3]。

オンライン診療は、当初、特定の課題を解決する「手段」として導入された。例えば、遠隔診療は「離島・へき地」という地理的課題 [3, 5, 6, 7, 8]、COVID-19期には「感染症対策」という緊急時の課題 [8, 9, 10, 11, 13, 14, 40] への対応としてその役割が拡大した。しかし、厚生労働省の指針 [2, 3, 32, 33, 35] や専門家の見解 [3] が示すように、オンライン診療は「医療DX」や「4つのP」といったより大きな「医療の将来像」の一部として位置づけられつつある。このことは、オンライン診療が単なる「ツール」ではなく、患者中心の医療、予防医療の強化、健康寿命の延伸といった、日本の医療システム全体の変革を牽引する潜在力を持つ「基盤」へとその認識が進化していることを意味する。したがって、今後の政策や投資は、短期的な利便性向上だけでなく、この長期的な医療の未来像を見据えた戦略的なものとなるべきである。

しかし、その真のポテンシャルを最大限に引き出すためには、残された課題への継続的な対応が不可欠である。まず、医療機関の導入インセンティブを高めるため、対面診療との診療報酬の差を是正し、オンライン診療の特性に応じた適切な評価を行うべきである [54, 55, 59, 44, 63]。次に、患者、特に高齢者向けの分かりやすいマニュアル作成やサポート体制の整備、医療従事者への継続的なIT研修を通じて、ITリテラシー格差を解消する必要がある [2, 32, 54, 58, 59, 44, 64]。

医療安全と信頼性の確保も引き続き重要である。誤診リスクへの懸念を払拭するため、オンライン診療に特化した診断学の確立、遠隔診断機器の活用、そして対面診療との適切な組み合わせのガイドラインをより具体化する必要がある [10, 15, 51, 52, 53, 54]。さらに、全国共通のオンライン診療システムの構築や、電子カルテとの連携強化により、医療機関の導入・運用負担を軽減し、患者情報のシームレスな共有を促進すべきである [27, 49, 54, 44]。

オンライン診療の真の普及は、医療提供者と患者双方の「信頼」をいかに構築するかにかかっている。現状の課題として、医療機関側の「誤診リスクへの不安」や「対面診療の方が信頼関係を築きやすい」という認識 [10, 15, 51, 52, 53, 54] と、患者側の「診療の質への不安」 [58] が挙げられている。これは、オンライン診療が技術的に可能になったとしても、医療という人間中心のサービスにおいて最も重要な「信頼」が十分に構築されていないことを示唆する。この信頼を構築するためには、単に規制を緩和するだけでなく、医師への専門研修 [2, 3, 32, 36, 38] や患者への丁寧な情報提供 [2, 20, 32, 37, 57] を通じて、オンライン診療の「限界」と「可能性」を双方に正しく理解させることが重要である。

最終的に、オンライン診療を「外来」「入院」「在宅」に続く「第4の医療」として確立し、その役割と責任範囲を明確化することで、持続可能で質の高い医療提供体制の構築に貢献できる [8]。これは、診療報酬の適正化、ITインフラ整備、電子カルテ連携、オンライン服薬指導の拡充 [13, 67] など、オンライン診療を支える「エコシステム」全体を整備することで、医療機関と患者双方の負担を軽減し、信頼感を高めることができる。オンライン診療の未来は、技術、政策、経済的側面だけでなく、医療現場と患者の「信頼」という人間的側面への深い配慮にかかっている。

この記事は歯科医師の岡本恵衣先生に監修してもらっています。

歯科医師 岡本恵衣

ホワイトニングバー専属歯科医師 岡本恵衣

経歴

2012年:松本歯科大学歯学部を卒業

2013年:医療法人スワン会スワン歯科で研修

2014年:医療法人恵翔会なかやま歯科に勤務

2020年:どこでもホワイトニング(株式会社ピベルダ)に勤務

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