歯の黄ばみで悩んでいる方は多く、鏡を見て歯の色が気になったり、人前で笑うのをためらったりすることもあります。歯の色が気になることで、自信がなくなったり、人との交流に影響が出たりすることもあります。最近は歯を白くする「ホワイトニング」に興味を持つ人が増えていますが、その仕組みや効果についてよく知らない人もいます。
このレポートでは、歯が黄ばむさまざまな原因と、その仕組みを詳しく説明します。さらに、ホワイトニングがどうやって歯を白くするのか、使われる薬の働きや光の役割についても科学的に解説します。これにより、歯の変色とホワイトニングについて深く理解してもらうことを目的としています。
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1章:歯が黄ばむ原因と仕組み
1.1 歯の構造と元々の色
歯は、表面を覆う透明や半透明の「エナメル質」と、その内側にある黄色っぽい「象牙質」の2つの層で主にできています。歯の最終的な色は、この象牙質の色がエナメル質を通して透けて見えることで決まります。エナメル質はとても硬い組織で、歯を外部の刺激から守っています。一方、象牙質はエナメル質よりも柔らかく、たくさんの象牙細管という細かい管があります。
象牙質の色は人それぞれで、肌や髪の色と同じように遺伝が大きく関係しています。そのため、生まれつき黄色みが強い歯の人もいれば、比較的白い歯の人もいます。また、エナメル質の厚さや透明度、表面の細かい凹凸も、歯に当たる光の反射に影響を与え、歯の見え方に個人差が生まれます。このように、歯の色は単純に白いか黄色いかだけでなく、歯の内部の構造や光の性質、そして遺伝が複雑に絡み合って決まるものです。この元々の歯の色を理解することは、なぜ歯が自然にさまざまな色をしているのか、そしてホワイトニングがどのようにその色を変えるのかを知る上でとても大切です。
1.2 歯の内側が原因で変色するケース
歯の内側が原因で変色するケースは、歯の内部の構造に問題があって黄ばんだり色が変わったりするものです。これは、歯の表面をきれいにする通常のクリーニングではなかなか落ちません。
年齢を重ねることによる変化
年を取るにつれて、歯の内部では自然な変化が起こります。象牙質はだんだん厚くなり、色も濃くなる傾向があります。同時に、歯の表面を覆うエナメル質は、長年の食事や酸によるダメージ、すり減りなどによって少しずつ薄くなっていきます。このエナメル質が薄くなることで、内部の黄色味が濃くなった象牙質がより透けて見えるようになり、結果として歯が黄ばんで見えるようになります。一般的に、40歳を過ぎると多くの人でこのような年齢による歯の黄ばみが目立ち始めると言われています。
この黄ばみは、歯の構造そのものが変わることによるものなので、歯の表面を磨くクリーニングでは改善できません。エナメル質の内側にある象牙質の色そのものを変える必要があるため、薬剤を使って歯を白くするホワイトニングが唯一の効果的な方法となります。これは、年齢による歯の色の変化が、単なる表面の汚れではなく、歯の生理的な変化からきていることを示しています。
歯のけが
歯に強い衝撃やけがが加わると、歯の内部で出血が起こることがあります。この血液が象牙質に染み込み、ヘモグロビンなどの色素が象牙質に沈着することで、歯が灰色っぽくなったり、茶色っぽく変色したりすることがあります。このような変色は、けがの直後ではなく、数週間から数か月後に現れることが多いため、原因が見過ごされがちです。
薬が原因の着色(テトラサイクリン歯)
歯が作られる時期、特に乳歯ができる頃から永久歯が生える頃の0歳から12歳くらいに、テトラサイクリン系の抗生物質をたくさん飲むと、その副作用として歯の内部に薬の色素が沈着し、灰色、茶色、または縞模様の変色が生じることがあります。このテトラサイクリンによる変色は、見た目の問題だけでなく、その人の気持ちや社会生活にも深刻な影響を与えることが研究でわかっています。
具体的には、変色した歯を持つ人の多くが、性格形成に大切な小学校低学年から中学校の時期に歯の変色を気にし始め、約6割が変色によって嫌な経験をしていたと報告されています。歯の色が黒いことでからかわれたり、指摘されたりする経験は、会話中にいつも口元に視線を感じる原因となり、その人の行動や心理、性格に影響を及ぼし、自信の低下や人との交流に消極的になることにつながると示されています。このような長期間にわたる精神的なストレスは、ホワイトニングなどの審美歯科治療によって「負担や制約からの解放」をもたらし、患者が「自然な自分、本当の自分になった」と感じるほど、その人生に大きな影響を与えることが示唆されています。この事実は、歯の変色に対する歯科治療が、単に見た目を良くするだけでなく、患者の心の健康や生活の質(QOL)を高める大切な治療であることを示しています。
歯科治療で使った材料による変色
昔の歯科治療で使われた一部の材料、特にレジン(歯科用プラスチック)は、水分を吸いやすい性質があり、時間が経つと着色したり変色したりすることがあります。これは、材料自体の劣化や、飲食物の色素を吸い込むことによるもので、新しいセラミックなどの材料に替えることで改善できます。
病気が原因の変色
特定の全身の病気や、歯の内部の神経(歯髄)が壊れるなど、歯の病気が歯を変色させることもあります。
歯のミネラル成分が溶け出すことによる変色
歯の表面のエナメル質からミネラル成分が溶け出す現象を「脱灰」と呼びます。脱灰が進むと、歯の表面にわずかな凹凸ができたり、エナメル質内部で光が乱反射したりすることで、歯本来のツヤや輝きが失われ、黄ばみが目立って見えることがあります。初期の脱灰は、唾液中のミネラルなどによって「再石灰化」と呼ばれる過程で元に戻る可能性がありますが、脱灰が進むと歯の表面の透明感がなくなり、歯の黄ばみが目立つようになります。
これは、歯の透明感や輝きがエナメル質のミネラルバランスと構造の完全性に深く関係していることを示しています。ミネラルが失われると、エナメル質の細かい結晶構造に不規則性が生じ、光の散乱の仕方が変わることで、歯がくすんで見えたり、黄色みが強調されたりする原因となります。このことから、適切な歯磨きと食生活によってエナメル質の再石灰化を促すことは、虫歯予防だけでなく、歯の自然な美しさを保つためにもとても重要だと言えます。1.3 歯の外側が原因で着色するケース
歯の外側が原因で着色するケースは、歯の表面に付着する色素汚れ(ステイン)によるものであり、普段の飲食や生活習慣が主な原因となります。
飲食物と嗜好品
多くの飲食物や嗜好品には、歯の表面につきやすい色素が含まれています。代表的なものとしては、コーヒーに含まれるタンニンが歯の表面に強くくっつき、飲み続けることでだんだん歯を黄ばませます。同じように、紅茶、緑茶、ウーロン茶などのお茶類もタンニンを多く含むため、着色の原因となります。赤ワインは強い着色力があり、ポリフェノールやタンニンが歯の黄ばみを引き起こす代表的な飲み物の一つです。
意外なことに、白ワインも歯の黄ばみの原因となることがあります。白ワインに含まれる酸が歯の表面を一時的に柔らかくし、他の着色物質が入り込みやすくなるためです。また、炭酸飲料やスポーツドリンクに含まれる酸や糖分も、長期間飲み続けることで歯の表面をざらざらにし、着色しやすい状態を作ります。
食べ物では、カレーに含まれるターメリック(ウコン)が強い黄色い色素を持ち、歯に着色を起こします。トマトソースやケチャップ、醤油、ソースなどの酸性で色の濃い食品や調味料も、食べ続けることで歯の黄ばみの原因となります。ブルーベリーやブラックベリーなどの濃い色素を含むベリー類、チョコレートなども注意が必要です。嗜好品では、タバコのヤニ(タール)が歯にこびりつき、歯を茶色くくすませる強力な着色源となります。
着色汚れ(ステイン)ができる仕組み
歯のエナメル質の表面は、唾液に含まれるタンパク質がくっついてできる「ペリクル」という薄くて無色の膜で覆われています。このペリクルは、飲食物に含まれるポリフェノールなどの着色の原因となる物質が結合したり付着したりするための足場となり、これらが溜まることで着色汚れ、つまりステインができます。
ステインができるのは、単に表面にくっつくだけではない、いくつかの段階を踏むことが知られています。まず色素がペリクルに「沈着」し、次に象牙質の有機物が水分を含む性質を利用して色素が歯の内部へと「拡散」します。そして、拡散した色素が歯の組織と結合し「固定」されることで、一度入り込むと物理的に磨くだけでは完全に除去が難しい頑固なステインへと変わります。この「沈着→拡散→固定」という過程は、外側の着色であっても、時間が経つと歯磨きだけでは落ちにくい理由を説明します。これは、表面の汚れが歯の内部構造にまで影響を及ぼし、外側と内側の区別が治療の難しさに影響する可能性を示しています。
口の中の衛生状態と唾液の影響
歯の表面がツルツルで滑らかでない場合、例えば細かい傷や凹凸がある場合、着色物質がつきやすくなります。また、歯磨きが不十分で磨き残しがあると、口の中にプラーク(歯垢)が残ります。プラークは黄ばんだ色をしており、さらに石灰化して硬い歯石になると、それ自体が黄ばんで見えるだけでなく、着色物質がつきやすい表面を作ります。
唾液には、口の中の汚れを洗い流す「自浄作用」があります。そのため、唾液の分泌量が少ない口の中は、自然な洗浄効果が弱まるため、着色しやすい傾向にあります。このように、外側の着色は、単に色の濃い飲食物を食べるだけでなく、歯の表面の状態、プラークや歯石があるかどうか、そして唾液の量といった口の中全体の環境によってその溜まり方が大きく変わります。適切な歯磨き習慣と定期的な歯医者での検診は、着色汚れが溜まるのを防ぎ、歯の白さを保つために欠かせない予防策となります。表1: 歯の黄ばみの内側と外側の原因比較
要因の種類 | 原因 | メカニズム | 特徴 |
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内因性 | 象牙質の色(遺伝・個人差) | 象牙質自体の色の違いがエナメル質を通して透けて見える | 生まれつきの歯の色、クリーニングでは改善しにくい |
加齢(象牙質の厚み・色の濃さの変化、エナメル質の摩耗・薄くなること) | 象牙質の色変化とエナメル質が薄くなることで、内側の黄色がより目立つようになる | 40歳以降に目立つことが多い、ホワイトニングが必要 | |
外傷(歯の内部出血) | 血液成分が象牙質に染み込み色素沈着 | 灰色っぽくなったり、茶色っぽく変色、数週間~数か月後に現れる | |
薬(テトラサイクリン) | 歯が作られる時期に服用した薬の色素が歯の内部に沈着 | 灰色、茶色、縞模様の変色、心理的な影響が大きい | |
歯のミネラル成分が溶け出すこと(脱灰) | エナメル質内部で光が乱反射し、ツヤや輝きが失われ黄ばみが際立つ | 初期段階は唾液による修復(再石灰化)の可能性あり | |
歯科治療材料(レジン) | 材料が水分を吸いやすい性質により、時間が経つと変色 | 新しい材料に替えることで改善できる | |
病気 | 特定の病気や歯の病気による内部からの変色 | 専門的な診断と治療が必要 | |
外因性 | 飲食物(コーヒー、紅茶、ワイン、カレーなど) | 飲食物の色素が歯の表面のペリクル(薄い膜)にくっつく | 普段の飲食が原因、歯磨きやクリーニングで落とせる(一部はホワイトニングも必要) |
タバコのヤニ | タールが歯にこびりつき色素沈着 | とても頑固な着色汚れ | |
口の中の衛生状態(プラーク、歯石、表面がざらざらになること) | プラークや歯石が色素の付着を促進、表面がざらざらになることでも着色しやすくなる | 適切な歯磨きと定期的な歯医者でのケアで予防・改善 | |
唾液の量 | 唾液の汚れを洗い流す作用が低下し、汚れが流れ落ちにくくなる | 唾液腺マッサージなどで改善できる |
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2章:ホワイトニングで歯が白くなる仕組み
2.1 ホワイトニングの基本的な仕組み:酸化反応で色素を分解
ホワイトニングは、歯の表面についた着色汚れを物理的に取り除くクリーニングとは全く違う方法で歯を白くします。その主な仕組みは、ホワイトニング剤に含まれる過酸化物(主に過酸化水素や過酸化カルバミド)が歯のエナメル質や象牙質といった内部に入り込み、そこで分解されることで「活性酸素」または「フリーラジカル」と呼ばれる強力な酸化剤を作り出すことにあります。
この活性酸素が、歯の内部に沈着した着色物質、特に「発色団」と呼ばれる色素分子の構造に作用します。具体的には、色素分子の化学構造、特に光を吸収する原因となる部分(ベンゼン環や共役二重結合)を酸化分解によって壊します。これにより、色素分子は光を吸収する能力を失い、色が薄くなるか、あるいは無色透明な物質へと変化します。このプロセスを通じて、歯は表面的な着色だけでなく、内部にまで染み込んだ色素も分解され、内側から白く見えるようになるのです。
この作用は、歯の表面の汚れを落とす「クリーニング」とは異なり、歯そのものの色を化学的に変化させる「漂白」作用であることが重要です。クリーニングが外側の着色に有効であるのに対し、ホワイトニングは歯の内部に作用するため、年齢による象牙質の黄ばみや、一部の薬による変色といった内側の変色にも効果を発揮します。この化学的な漂白作用こそが、専門的なホワイトニングが提供する本当の白さの根拠であり、過酸化物を含まない市販の歯磨き粉やセルフホワイトニング製品では同じ漂白効果は期待できない理由でもあります。
2.2 主なホワイトニング剤とその働き
ホワイトニング治療に使われる主な有効成分は、過酸化水素(Hydrogen Peroxide, HP)と過酸化カルバミド(Carbamide Peroxide, CP、別名:過酸化尿素)の2種類です。これらはどちらも過酸化水素の働きを持ち、歯のホワイトニング剤として使われますが、その化学的な作りと働き方には違いがあります。
過酸化水素 (HP)
過酸化水素は強力な酸化剤で、歯に直接塗ることで、早く効果的に歯を白くする効果を発揮します。その分解が早いため、通常、1回から2回の治療ではっきりと効果が見えることが多く、主に歯医者さんで行われるオフィスホワイトニングの主な成分として使われます。
過酸化水素は強い漂白作用を持つ一方で、濃い濃度で使う場合、歯茎や歯に刺激を与える可能性があります。そのため、歯医者さんの厳密な管理のもと、適切な歯肉保護(ラバーダムなど)を行いながら使うことが不可欠です。過酸化水素の化学的な性質、特にその急速な分解と強力な酸化力は、すぐに効果が出る漂白作用をもたらしますが、同時にその強力さゆえに、専門家による厳格な管理と適切な使い方が、患者さんの安全と治療効果を確保するために非常に重要となります。
過酸化カルバミド (CP)
過酸化カルバミドは、尿素と過酸化水素が結びついた化合物で、水に触れると尿素と過酸化水素に分解されます。この分解プロセスは比較的ゆっくりで、約8時間かけてゆっくりと過酸化水素を放出すると言われています。
過酸化カルバミドは徐々に過酸化水素を作り出すため、ゆっくりではあるものの、より長く続く漂白効果をもたらします。このゆっくりと効果が続く性質により、透明感のある自然な白さに仕上がり、効果も長続きするという特徴があります。そのため、主に患者さんが自宅で行うホームホワイトニングの主な成分として使われます。過酸化カルバミドは過酸化水素に比べて知覚過敏や刺激のリスクが低いとされており、長時間歯に接触させることができるため、寝ている間にマウスピースをつけて使うなど、患者さんの生活スタイルに合わせた柔軟な使い方が可能です。この薬剤の、コントロールされた方法でゆっくりと成分を放出する仕組みは、すぐに効果を出すことよりも安全な自宅での使用と、より自然で長続きする結果を求める場合に適しており、治療の速さと患者さんの便利さ・安全性のバランスを考慮した選択肢となります。
神経がない歯への対応:過ホウ酸ナトリウム
歯の神経がなくなってしまった歯(無髄歯)は、内部からの出血や腐敗によって変色することがあります。このような神経がない歯の変色に対しては、過ホウ酸ナトリウムがホワイトニング剤として使われることがあります。これは、歯の状態に応じて最適な薬剤を選ぶ必要があることを示しています。神経がない歯の変色は、通常の健康な歯とは原因や仕組みが異なるため、専門家による診断に基づいた、より専門的な治療方法が求められます。
表2: 過酸化水素と過酸化カルバミドの比較
側面 | 過酸化水素ゲル (Hydrogen Peroxide Gel) | 過酸化カルバミドゲル (Carbamide Peroxide Gel) |
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化学組成 | 有効成分として過酸化水素を含む | 有効成分として過酸化カルバミド(尿素と過酸化水素の複合体)を含む |
美白能力 | 早く効果的に歯を白くし、1〜2回の治療ではっきりと効果が見える | 1〜2週間の治療で、ゆっくりではあるが長持ちする美白効果、はっきりと効果が見える |
速度 | 通常1〜3回の塗布で望ましい結果が得られる、分解が速い | 望ましい結果を得るにはより多くの塗布が必要、通常7〜14日間の治療、ゆっくり分解(約8時間かけて過酸化水素を作る) |
安全性 | 高濃度は歯茎や歯に刺激を与える可能性があり、注意して使う必要がある | 知覚過敏や刺激のリスクは低いが、不快感や知覚過敏を引き起こす可能性もある |
一般的に使用される濃度 | 6〜35%(濃度が高いほど早く結果が出る) | 10〜44%(濃度が低いものでより長い治療に使われる) |
使い方 | 歯に直接塗る、またはマウスピースやストリップと併用 | 歯に直接塗る、またはマウスピースやストリップと併用 |
効果の持続期間 | 適切な口腔ケアとメンテナンスにより最大6ヶ月持続 | 適切な口腔ケアとメンテナンスにより最大6ヶ月持続 |
2.3 光照射(LED/レーザー)の役割
オフィスホワイトニングでは、ホワイトニング薬剤、特に過酸化水素を塗った後に、青色LEDライトなどの特殊な光を歯に当てるのが一般的です。この光は、薬剤そのものを漂白するわけではありませんが、ホワイトニング薬剤の分解を促し、活性酸素(フリーラジカル)の発生を加速させることで、化学反応を助ける触媒のような役割を果たします。
光を当てることで薬剤の働きが促進されるため、薬剤が歯に均一に浸透し、より早く効果を実感できるようになります。過酸化水素の反応は温度、pH、そして光の影響を受けることが知られており、光を当てることで薬剤の化学反応の効率と速度が高まり、短い時間でより効果的なホワイトニング結果を得ることが可能になります。これは、時間に限りのあるオフィスホワイトニングにおいて、治療の効率を最大限にするための重要な技術です。
2.4 漂白以外の効果:マスキング効果
ホワイトニング薬剤、特に過酸化水素には、着色した有機物を酸化分解して漂白する作用だけでなく、歯のエナメル質の表面構造を細かく変化させる効果があることが知られています。この構造変化により、光の「乱反射」が起こりやすくなります。
通常、歯の内部にある黄色みがかった象牙質の色は、透明なエナメル質を通して透けて見えます。しかし、エナメル質表面の構造が変化して光が乱反射することで、内部の象牙質の色が透けて見えにくくなります。この現象は「マスキング効果」と呼ばれ、歯がより白く、明るく見えるようになる一因となります。
このマスキング効果は、ホワイトニングが単に色素を化学的に分解するだけでなく、歯の光の性質を変えることで見た目の白さを向上させるという、二重の仕組みを持っていることを示しています。これにより、特に内側の黄ばみに対して、化学的な漂白と物理的な光の効果の両方からアプローチし、より効果的で自然な白さを実現できるのです。
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3章:ホワイトニングの効果と気をつけること
3.1 ホワイトニング効果に影響する要因
ホワイトニングの効果は、患者さんの歯の状態や選ばれる治療法によって大きく異なります。効果に影響を及ぼす主な要因としては、歯の着色の種類と度合い、使う薬剤の濃度、薬剤を当てる時間、そして患者さん自身の歯の質(エナメル質の厚さや透明度、象牙質の色)などが挙げられます。
外側の着色、つまり飲食物やタバコによって歯の表面についた色素は、ホワイトニング薬剤によって比較的簡単に分解されやすく、元の白さに戻しやすい傾向にあります。しかし、内側の着色、特にテトラサイクリン歯のようなひどい内部の変色は、治療に時間とより濃い薬剤が必要で、完全に理想的な白さを手に入れるのが難しい場合もあります。
このことは、歯の変色の原因がホワイトニングの結果に直接影響を与えることを示しています。表面の着色は反応しやすい一方で、歯の内部に深く染み込んだ色素や、全身的な要因による変色は、より集中的な治療が必要になるか、あるいは完全に改善することが難しい場合があります。したがって、ホワイトニング治療を始める前には、歯科専門家による正確な診断が不可欠であり、これにより最適な治療計画を立て、患者さんに現実的な治療結果の予測を伝えることが可能となります。
3.2 起こりうる副作用とその対処法
ホワイトニング治療は一般的に安全だとされていますが、いくつかの起こりうる副作用があります。
知覚過敏
ホワイトニング薬剤に含まれる過酸化物が歯のエナメル質を通り抜け、内部の象牙質に達することがあります。象牙質には、歯の神経につながる細かい管(象牙細管)があり、過酸化物がこれらの管に入り込むことで一時的に歯の神経が刺激され、知覚過敏が起こることがあります。この知覚過敏は、冷たいものや熱いものに対する一時的な痛みとして現れることが多く、通常は治療後数日以内に自然に治まることが多いです。症状が気になる場合は、歯医者さんに相談し、知覚過敏を抑える薬をもらったり、治療を一時中断したり、薬剤の濃度を調整したりすることを検討することが重要です。
歯茎への刺激
濃い濃度のホワイトニング薬剤が歯茎に直接触れると、一時的な炎症や刺激を引き起こすことがあります。これは、適切な歯茎の保護(例えば、オフィスホワイトニングでのラバーダムの使用や、ホームホワイトニング用マウスピースの型が合っているかの確認)を行うことで防ぐことができます。
これらの副作用の仕組みを理解することは、その予防と効果的な管理のために欠かせません。ホワイトニングは強力な化学物質を使う医療行為であるため、正確な薬剤の使い方、適切な保護、そして歯医者さんによる継続的な管理が、不快感を最小限に抑え、患者さんの安全を確保するために非常に重要です。これにより、ホワイトニングが一般的に安全な処置であるにもかかわらず、専門的な診断と管理が不可欠である理由が明確になります。
3.3 白さを保つためのケア
ホワイトニングで得られた歯の白さは、ずっと続くものではなく、適切な歯磨きと生活習慣の改善によってその持続期間が大きく変わります。
白さを保つためには、着色しやすい飲食物(コーヒー、紅茶、赤ワイン、カレーなど)の摂取を控えるか、摂取後すぐに水で口をゆすぐ、または歯磨きを行うことがすすめられます。また、タバコは強力な着色の原因となるため、控えることが望ましいです。
定期的に歯医者さんで専門的なクリーニングを受けることは、外側の着色汚れ(ステイン)や歯石が溜まるのを防ぎ、ホワイトニング効果を長持ちさせるのに非常に効果的です。エアフローと呼ばれる微細なパウダー粒子をジェット噴射で吹き付ける方法などは、歯にこびりついた細かい汚れを効果的に取り除けます。
ホワイトニングの効果を保つためには、患者さん自身の普段の努力が不可欠です。治療によって得られた白さは、その後の生活習慣と口の中の衛生状態に大きく左右されます。これは、歯の美しさを長く保つためには、治療だけでなく、患者さんと歯科専門家との協力による継続的な予防とメンテナンスが重要であることを示しています。
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結論
歯の黄ばみは、生まれつきの象牙質の色、年齢による歯の構造の変化、けがや薬の服用による内部の変色といった「内側の原因」と、飲食物やタバコによる表面の着色、不適切な口の中の衛生状態からくる「外側の原因」が複雑に絡み合って起こる、さまざまな要因が関係する現象です。特に、内側の変色は歯の内部構造が原因であるため、一般的な歯のクリーニングでは改善が難しく、専門的な方法が必要となります。
ホワイトニングは、過酸化水素や過酸化カルバミドといった過酸化物を利用し、歯のエナメル質や象牙質に浸透させて活性酸素を発生させ、色素分子(発色団)を酸化分解することで歯を白くします。さらに、エナメル質表面の細かい構造が変化して光が乱反射する(マスキング効果)ことも、内部の黄色い象牙質が透けて見えにくくし、歯の白さの向上に役立つという二重の仕組みがあることが明らかになっています。
この治療は、単に歯の見た目を美しくするだけでなく、テトラサイクリン歯の患者さんに見られるような、歯の色が原因で生じる精神的な負担からの解放や自信の向上といった、患者さんの生活の質(QOL)に深く貢献する医療行為だと言えます。
しかしながら、ホワイトニングは薬剤の選び方、濃度、使い方、そして起こりうる副作用(一時的な知覚過敏や歯茎への刺激など)の管理において、専門的な知識と技術が必要です。市販にはさまざまなホワイトニング製品やサービスがありますが、過酸化物を使わないセルフホワイトニングでは、医療機関で行われるホワイトニングのような、歯そのものを漂白する効果は期待できない点に注意が必要です。
したがって、歯の黄ばみの原因を正確に診断し、それぞれの状態に合わせた最も適切で安全なホワイトニング方法を選ぶためには、歯医者さんや歯科衛生士といった専門家による診断と指導が不可欠です。専門家の管理のもとで治療を受けることにより、安全かつ効果的に理想的な歯の白さを実現し、その美しさを長く保つことが可能となります。
この記事は歯科医師が監修しております
歯科医師 岡本恵衣
経歴
2012年 松本歯科大学歯学部卒業
2013年 医療法人スワン会スワン歯科にて臨床研修
2014年 医療法人恵翔会なかやま歯科
2020年 どこでもホワイトニング(株式会社ピベルダ)